皆様のおかげで病院も地域に少しは密着してきたかなと感じる今日この頃です。以前、皮膚科診療日記でその日の診療をアップしていました。昨年11月から新たに獣医師が1人加わり、私にも時間のゆとりができてきました。毎日更新ともいかない上、つたない私達の知識ですが、少しでも皆様にお役に立てればと思って、診療記録を再開させていただきますので、また、よろしくお願いします!
「おしっこが近い」ということで受診したDちゃん。
いつも通り、いつから始まったか、食欲、元気、排便、排尿、嘔吐と受付で問診をとり、バイタルを含めた身体検査所見を整理します。
また、既往歴として、ストラバイト膀胱結石があり、現在、w/dを食べています。以前はc/dだったのですが、それを食べてから4ヵ月後に膵炎を発症しています。
これはご存知ですか?
c/dは膵炎のリスクがある犬へ推奨されていないということを。
どうしてかというと、よくストラバイト言われますが、これは「リン酸アンモニウムマグネシウム」ともいいます。つまり、ストラバイトはリン、アンモニア、マグネシウムから作られていて、治療食はこれらを制限しています。さらにいうと、リン、アンモニアを制限するために、肉や魚を制限し、そのかわりにカロリー源として、脂肪が増量されています。
一方で、代表的な膵炎の発症リスクは、高脂肪食の摂取や高脂血症です。Dちゃんは「時々、下痢と嘔吐」という症状があったことは問診からわかっています。いわゆる、「間歇的な消化器症状」。そんな中、c/dへ変更して4ヵ月後に膵炎を発症しています。もちろん、c/dとの因果関係を立証することはできません。いずれにしても、「間歇的な消化器症状」を示すとワンちゃんに、脂肪分の高いc/dを与えるのはやはり注意も必要です。くれぐれも誤解のないようにして欲しいのですが、ストラバイトの結石にはc/dがとても効果的で、多くのワンちゃんに問題なく与えることができます。もちろん、私もc/dを使います。
話は元に戻って、「おしっこが近い」という主訴を詳しく聞いていくと、どうやら「少量で頻回の排尿をする」という症状が疑われました。この場合は、尿道、膀胱、前立腺のどこかに問題があると予測されるので、尿検査と超音波検査が有効です。そこから、「小さなシュウ酸カルシウムの膀胱結石がある」ことが予測されました。
あれ? Dちゃんの膀胱結石は、ストラバイトからシュウ酸Caに変わった…
どうして?と考えました。膵炎発症後にw/dを与えていたのですが、これはストラバイトに配慮した低脂肪食です。w/dは尿を酸性化する効果があり、さらに原材料として「てんさい」を使っています。てんさいは、シュウ酸を高濃度に含んでいます。尿が酸性化され、シュウ酸が多く含まれているフードはやはりシュウ酸ができやすいと想像できます。
ここまでわかれば、治療方針が立ちます。
まずは、「小さなシュウ酸カルシウムの膀胱結石」をなくすことです。結石は尿道閉塞を起こすほど大きくなかったので、起立位排尿で排尿させるように指導しました。でも、うまくいかず、麻酔下で膀胱を圧迫しながら起立位排尿で全て排尿させることができました。
また、w/dを中止することで、今後はシュウ酸は出ないだろう。でも、c/dへ戻すと、膵炎を発症するかもしれない。では、ストラバイト対策として、いくらか低脂肪(?)なCCDへ変更してはどうだろう?おそらく、CCDでシュウ酸とストラバイトは予防できるだろう、あとは膵炎さえ予防できればうまくいくと考え治療を開始しました。
あれから1年たちますが、今は膵炎もなく、ストラバイトもなく、シュウ酸カルシウムもなく過ごしています。ただ、「間歇的な消化器症状」だけが残っています。慢性膵炎?でも違う気がします。なぜなら、幼少のころからあったようですから。今度はこれを解決して欲しいというお願いをされているので、また新たな挑戦が始まります。
ここからわかるように、処方食の使い方は簡単ではありません。その特徴をよく知った獣医師の指導のもと選択するようにしましょう。